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学校法人 美咲輝学院。東京都の1区を占める巨大学園の中、
風があれば涼しいくらいの春から夏への季節の変わり目を見せる昼下がりの日差しの下で、
まばらに人が通る通りを進む一人の少女があった。
本人としてはやや駆け足のつもりで、でもあまり早くは無く。
両手に抱えた紙袋を大事に大事に抱えながら走る。
そんな微笑ましい光景とは裏腹に少女は真剣だった。
(これを…渡す…!)
抱えた紙袋を見て気合を入れなおす少女の名は「鴇神 冴」。
その儚げな姿とは裏腹に、高等部全体で24人しかいない、
部活最高の実力者の称号『極星』が一人、「黒帝」を冠する少女である。
「…ふ…ぅ…」
嫌な汗が滲んでくる。昨日の無理が祟ってきていた。
間に合わないからと、昨日根を詰め過ぎた。その結果、今抱えてる紙袋がある。
今日、これを渡さないと意味が無いのだ。朝凪九郎に。
今日、彼の誕生日にこの紙袋の中身を渡す。
普段内気な冴としては一念発起といった状態(あきによる誘導も多分にあったようだが)。
是非手作りのものを。と、作り続けていた冴だったが、
前日になってもギリギリ間に合わなかった為、半分徹夜で作り上げたものだ。
しかも九郎に渡すと考えるだけで思考回路はショート寸前。
そんなわけで心身共にふらふらになりながらも校舎まで入ったのだが、
日差しがなくなったことで安心したのか、気が緩んでしまった。
(あっ…!拙…)
そんな事を思う間こそあれ、冴の意識は途切れた。
「うーん、どうなったんだろー」
放課後の校舎をぽてぽて歩く少女が一人。
時々、「くー」とお腹の虫が誰に言われるまでも無く鳴いていた。
「部活が終わったらご飯だねー」
数人前は食べたと思われる昼食から、まだ3時間経っていないはずだが、
彼女、鈴鳴はやなにとっては十分にお腹の空く量と時間だったようだ。
今は彼女が属する「正義の味方部」の活動中。
にもかかわらず、彼女は部員としての姿「ティンクルセイバー」ではなく、
普通の制服姿のまま校舎をぶらぶらと散歩していた。無論、それには理由があるのだが。
「…あれ?」
昇降口の辺りに差し掛かったとき、倒れている少女の姿が目に留まった。
「あやや…大変だよ…」
慌てて駆け寄って体を起こす。体が熱い。熱があるようだ。
しかし、特に外傷などはなく、風邪か何かだろう。
「よし!保健室に運んじゃおう!」
そしてはやなは、倒れている少女を抱えて保健室を目指した。
小柄なはやなにとってその少女を運ぶのは結構大変なことだった。
しかし、はやなは息を切らせながら、保健室まで抱えて運び切った。
さすがティンクルセイバー。人助けに全力を尽くす姿はまさに正義の味方である。
…問題は、どこにも無かったはずだ。
敢えて言えば…
その保健室の名が「第4保健室 湊」即ち正義の味方部の部室であった事、
倒れた少女が味方部と相対する「世界征服部」の部員だった事、
そんな立場の問題だったのだろうか。それとも…
「あー、夕霞ちゃん? なんか、気絶した冴ちゃんが味方部の部室に連れ込まれてたでー」
運び込む姿を偶然見た者が、最も厄介な者だったからかもしれない。
かくして、誤解が誤解を生む大騒動が幕を開けた…
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