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和麻「以前は失礼しました。多少思うところがあったので…」

燈也「あー、いや、こっちこそいきなり悪かったっす」

 二人は校舎の端へと向かっていた。
そこには昇降口があり、かなり開けている場所になっている。

和麻「構いませんよ。落とし前は師匠が付けてくれたようなので」

燈也「そうッスか、姫さんの弟子だったんッスね」

和麻「ええ。不肖の弟子ですが。色も継がせて頂きました」

 一見すると普通の会話。しかし、二人の間には次第に張り詰めた空気が流れ始める。
そして、昇降口へとたどり着いたとき…

和麻「では…。改めて、武居和麻です。」

 和麻は燈也に向き直り、そう言うと一礼をして構えを取った。
その瞬間、燈也の全身が総毛立つ。凄まじいプレッシャーが燈也を襲った。

燈也「司木燈也だ!!行くぜぇぇ!!」

 プレッシャーを跳ね除けるがごとく、咆哮した燈也は構えもそこそこに駆け出した。

狙うは鳩尾への最速の一点突き。

 わかっていても反応は難しいであろうその攻撃を、しかし和麻は足の動きだけで交わす。

燈也「くっ!?」

 一瞬和麻が喪失したような錯覚を覚えるも、体はきちんと反応し、和麻の方を向き直る。
それが幸いした。和麻が交わしたと同時に放った横薙ぎの一撃は、燈也の手甲に当たり威力をそがれた。
そのまま胴に当たったが、燈也の纏う「鉄」が木刀を受け止めた。

和麻「あの状態から技を殺すとは…見事です」

燈也「あんたこそ、前の時とは別人だぜ」

 再び距離をとった状態から、今度は和麻が仕掛ける。
どう見ても剣道部とは思えない、剣術というべきが相応しい独特の構えから、
一足飛びで仕掛けるは一部の無駄も無い上段からの唐竹。
 「鉄」は頭を保護していない。食らえば昏倒必須の一撃を、辛うじて手甲で弾く燈也。
ぎりぎりだったがともかく凌いだ。そう考えた燈也はそのまま反撃へ転じる。

燈也「なっ!?」

 しかし、技後の無防備な姿であるはずの和麻は既に次の攻撃へと移行していた。
言われてみれば、先ほどの頭への一撃は見た目ほど威力が無かったように思える。

フェイク!

燈也(やべぇっ!…こうなったら!)

 技中の状態を逆に狙われる事になった燈也だが、構わず技を出し続ける。
ただし、狙いは相手の木刀に変えて。結果、木刀と手甲が激突し、お互いが吹き飛ばされた。
二人は再度距離を開け、仕切りなおすこととなる。

和麻「やりますね」

燈也「そっちこそな」

 お互い賞賛の声を上げつつ、構えを取る。心の声はまた別物なのだが。

和麻(強い。正直ここまでとは…。師匠と戦った事が影響しているのだろう)

 和麻は、以前抱いた燈也の実力を上方修正した。
少なくとも、今持つ自分の技では決定打にはならないだろう。

…ならば…

 和麻の目に一際強い光が宿った。

燈也(…洒落になってねぇ! 姫さんほどじゃねえが…底が見えねぇ)

 全身が興奮とも畏怖ともつかない疼きに苛まれている。
心臓は際限なく鼓動を高め、呼吸が空気以外のナニモノカを出し入れしだす。

…悪くない。悪くないぜ…!

 そして燈也はそれを楽しんでいた。
以前、紅蓮姫と戦った時、色々と吹っ切れたような気がする。
今燈也は、本当の意味で兵(つはもの)との戦いを楽しんでいた。

和麻「燈也くん…でしたか。」

燈也「ああ。」

和麻「次で決めます。」

 そして、和麻は構えを取った。同時に紅色の焔が全身から立ち上る。
大きく腰を落とし、木刀を水平に持つその構えから放たれる技は、武居和麻が奥義「紅刃」。
かのティンクルセイバーに一撃を与えたその極星名と同一の技を見切れる者が果たしているのか…。

燈也「へへっ、すげーな…!」

 燈也の目が細まる。和麻の声・目・態度に本気の色を見て取ったためだ。
何より、極星の本気の証、「極光(オーロラ)」が全身から立ち登っている。

和麻「先に言っておきますが…この技は恐らく見えないか、見ても反応できないでしょう」

燈也「……」

和麻「だから、避けないでいただく事をお勧めします。そうすれば安全に決着をつけましょう。
   抵抗されると、どうなるか分かりません。」

燈也「…へへっ、そう言われて、はいそうですか。って言えるかよ!」

 そして、和麻の技に対応すべく、体を開いて構えを取る。
それは放たれる木刀を見切り、捌く。ただそれだけを成さんとする構え。
燈也は知る由も無かったが、彼の取った構えは徒手空拳が奥義「無刀取」の流れを汲んでいる。
 一糸乱れぬその構えを見た和麻は、言葉の無駄を悟り手に力をこめる。

和麻「行きます」

燈也「ああ」

 しばしの沈黙。そして、和麻が文字通り爆発した!

初速からほぼ最高速に達した和麻は、瞬きの間に燈也を射程内に捕らえる。

そして足運びが高速ならば放たれる刃は神速。

剣閃を追うことすら難しい速度で燈也の胴へ木刀が吸い込まれる!

だが、そのときには既に燈也の両腕は動いていた。
奇跡としか言いようの無いタイミングで、燈也の両手が木刀を包み込んだ。

ガキィィィン!

 校舎中に響き渡る乾音が響いた。

カラーン

 続いて、何かが床に落ちる音。
和麻の木刀が、校舎の床に転がった。

和麻「防がれましたか…」

 木刀を失った和麻は、感嘆の想いと共にそう呟いた。

燈也「ああ。だが、腕が完全に痺れちまった。手甲も逝っちまってる。」

 膝をついた燈也が立ち上がりながら答える。
両腕はだらんと垂れ下がったまま動かない。暫く無理だろうと燈也は思った。

和麻「どうしますか」

燈也「どうもしねぇ。これ以上は無理みてぇだ。」

 それを聞いて、和麻は木刀を拾いにいった。

燈也「あー。師匠にゃ負けるし弟子にゃ負けるし
   手甲壊れて御堂センパイにゃまた叱られるし…ったく」

 そう言いながらどっかりと座り込む燈也の顔はすっきりしていた。

和麻「今回の勝敗は時間切れのようですよ」

 そう言われて燈也が見ると、丁度保健室のドアが開くところだった。


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