Ragnarok Online Original Story
Written by 雅[ELE]
第一章 第一節
それは夢だった。
何故なら、その一言は余りにも美しく、そして余りにも―――神々しい音色だった。
・・・なのにその声は、それが夢の一部であるかということを疑わせる程リアルに、鼓膜に響いた。
「世界は、あなたを、待っています」
私の意識は、そこで目覚めた。
瞼越しに、朝の光が差し込んで、余りの眩しさに、私は腕で目を隠した。
「う・・・ん」
鳥の囀りが、朝を知らせてくれる。目を擦り、身を起こしながら、今日はきっと快晴に違いないと予想してみる。期待を胸に、カーテンに手を伸ばす。
それはそれは、なんと気持ちのいい天気。雲一つ無い快晴。
窓を開くと、心地好い空気が肺に送られてくる。
うーんと、大きく、身を伸ばした。
二階にある私の部屋の窓からは、綺麗な町並みが一望出来る。
ルーンミッドガッツ王国首都、プロンテラ。
私は生まれてこの十七年間、この町で育ってきた。言わば見慣れた風景だけど、それ故に一番心の落ち着ける風景。
・・・そう言えば、あの夢はいったい、何だったのだろう・・・?
「クリス、起きたの?」
階下から元気よく響いてくる母の声。
「うん!今起きたよ!」
すぐに私も返事を返した。
私の名前はクリスティーナ・オクトハイム。母、エメラルディアと父、フェイトに育てられた、オクトハイム家唯一の子供にして、娘である。
テーブルの上にトン、と並べられる朝食。内容は至って平凡な、文字通りの朝食。
私の門出になるかもしれない日だっていうのに・・・なんと変化の無い朝食。
あまりの代わり映えの無さに、思わず苦笑しそうになる。
・・・でも、この代わり映えのない朝食には、実は母のメッセージが込められている。
“いつものように、特別なことをこなしなさい”それは母の常套句だ。
母はいつも笑顔で、この言葉を口にする。
それはそれは、なんという暖かみのある、朝食。
暖かすぎて、思わず苦笑してしまう。
「あら、気に入らなかった?焼きたてのトーストにバター、いつも喜んで食べてくれるから・・・」
「ごめんなさい、そんな意味で笑ったんじゃないの。母さんだって分かってるでしょう?それに、このトーストの焼き加減、私大好きなんだから」
私が訴えるようにみつめると、母は何故か嬉しそうに笑った。
「ふふ、ようやくわが娘も、母の教えが理解出来てきたみたいね。そう、
『いつものように、特別なことをこなしなさいね』」
私の声と母の声が重なる。もう何度も耳にした、それは母の常套句。
「うふふ、立派だわ、クリス」
にっこりと微笑む母。とても今日は上機嫌だ。
「それじゃ、いただきます」
かくして私の朝食は始まった。
「ちゃんと荷物はもった?忘れ物はないわね?」
「うん、大丈夫。きちんと準備出来てるよ、母さん」
玄関の前で、私はにっこりと母に微笑み返す。
出来れば、母のように暖かく笑えればいいけれど・・・。私は、母のように笑えているだろうか?
そして出発の時は来た。
「それじゃあ、行ってきます、聖職者になる為の試練」
「いつもどおりに頑張って、いってらっしゃい。くれぐれも気を付けて行くのよ」
娘を送る言葉も、やはり私の母らしい言葉だった。私は元気に手を振りながら、石畳で出来た街道を伝い北門の方へと、歩き出した。
うまく行けば、今日で私は憧れの聖職者になれるんだと思うと、胸が高鳴った。
途中、広場の一角で私は歩みを止めた。
南の正門から北門までにかけて連なるメインストリートは、毎日のように商人の出す露店で賑わっている。中でも街の中央に位置する大きな噴水のある広場は、特に商売が盛んな場所として有名である。
「お父さん!」
私は笑顔で一つの店へと駆け寄った。それは勿論、私の大好きな父の経営するお店。
お店の名前は『幸運』。父の名前、運命から、同じ運命を意味するフォーチューン、
そのもう一つの意味は幸運、というわけだ。勿論、お客さんに幸運を届けるってニュアンスも父は忘れていない。
昔から続く露店なだけあって、訪れるお客さんも多い様だ。父の昔馴染みの人もよくここに訪れる。みんな明るくっていい人ばかり。父の人の良さがよく分かる一面だ。売れ行きは黒字が主だし。
父母とも仲はよく、私も両親のことは心から大好きだ。本当に、二人の間に生まれた私は幸せだと思う。
「おお、クリス、これから行くのか?」
「うん。侍祭になれるように、頑張ってくるね」
「ああ、父さんも、クリスが成功するように祈ってる。頑張っていって来い」
「うん!それじゃあ、行ってきます!」
私は元気に手を振り、父の店をあとにした。お客さんに私のことでいろいろ聞かれるんだろうな、父さん・・・。まぁ、自慢の娘って言ってるから、すぐに満足げに答えるんだろうけど。
そう考えているうちに、私は街の北東に位置する大聖堂に辿り着いた。
聖職者:その基本職となる侍祭になることを志願する者はここでその試練を受けることになる。その他にも、聖堂だけあって、結婚などの儀式にも使用される。侍祭から司祭になるときにも、ここで手続きをすることが義務付けられている。
名の通り大きな建物である、そのうえとても神々しい。他の街にもこれほどの聖堂はないと父は言っていた。私はまだまだ他の街に行くことがなかったから、よく分からないけど。
私は高鳴る胸を抑えながら、大聖堂へと歩を進めた。