「ごきげんよう」 「ごきげんよう」 そんな声が飛び交う2年松組の教室の一角に留美は居る。 朝のHR前の一時、生徒達は教室に入ってきては席についてお喋りを始めていた。 「ごきげんよう、留美さん」 一人だけ違う服を着ている留美はかなり目立つ。故にいろいろ声を掛けられる事も多かった。 「おは…ごきげんよう、えーと…」 その度に挨拶を間違える留美だが、今回はそんな事はどっちでもよかった。 目の前の相手が誰だかわからないから。 「あ、私は広瀬真希と申します」 留美が自分の事を理解してないのが分かったのか、 鮮やかな緑のショートヘアを揺らしながら、自己紹介をして来た。 「何か嬉しそうね…ですわね」 「ふふ、無理なさらなくても結構ですよ、留美さん」 普通にお話してくれた方が嬉しいわ。と断った後、 「今日の始業式は、薔薇さま方が勢ぞろいされますから」 そう言って、うっとりと目を細める。 それを聞いて思い出したのか、周りの女の子数人も目を瞑って何かを想っている。 「薔薇さま…」 留美にはサッパリ分からなかったが、その言葉には覚えがあった。 先のマリア像の前で、微かにその言葉を聞いた記憶が残っている。 「ええ。山百合会を支える紅,白,黄の3色の薔薇さま方。 あ、山百合会と言うのは生徒会の事よ。薔薇さま方は生徒会役員なの」 「あら、噂をすれば。ごきげんよう、白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブウトン)」 真希さんとその友人達は、一斉に留美の隣を見て挨拶した。 「ごきげんよう」 そう言って着席したライトブラウンの髪を持つ女の子は、 留美を見て少し疑問に思ったようだが、すぐに脳内で解決したらしく 「あ、転校生の方ですね。始めまして、長森瑞佳です」 「あ、よろしく」 そう言って礼をした。つられて礼をする留美。 「瑞佳さんは白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)の妹(プティ・スール)ですのよ」 頼みもしないのに他の情報も寄せてくれる周囲の方々。 そのおかげでまた疑問が湧いてきてしまった。 「プティスールって…?」 留美にとっては初めて聞いた言葉。 普通に生きてきた高校2年生にフランス語を理解するのは難しいようだ。 「…後で説明いたしますわ」 そう言って緑髪の少女、広瀬真希は席へと戻った。 周りに誰も居なくなったので前を見てみると、先生が教壇に立っていた。