「あら、貴方もしかして朝の…」 一段落ついて、襲われていた少女がそう答えた。 少年等4人をノックアウトして、一応警察に連絡しようとしたら、彼女に止められた。 元となった万引きは未遂だし、恐喝の方で連絡したら貴方が彼等を倒した事も問題視されるかもしれない。 相手は中学生でまだ何の責任も無いが、此方は高校生。 成人とまでは行かなくてもそれなりに責任が生じてしまうから。 そう言う事らしい。普通の女の子なら声も出せないような状況で、 震えているとはいえよくそこまで先の事を考えられる。 「ええ。今朝はどうも、ロサ…キネンシスでしたっけ?」 どうも慣れない。 「ふふ、慣れないようね。2人の時は雪見さんでいいわ」 考えは見透かされていたようで、呼び方を自ら教えてくれた。 「それじゃあ、普段はどう呼べばいいの?」 「一応、ロサ・キネンシスと呼んで頂戴。 上級生をさん付けで呼ぶと色々面倒くさい事になるから…」 リリアンでは同級生は「さん」付け。上級生は「様」をつけるのが慣例らしい。 上級生が下級生を呼ぶ時は呼び捨てや「ちゃん」付けなどもあるらしいが。 「それにしても、鮮やかなお手並みだったわ。剣道でもやってたの?」 「はい。中学まで」 「高校ではやらないの?」 「ええ、腰を痛めてしまって…」 「では、先ほど活躍していた時に蹲ったのは…」 「はい…ちょっと腰にきまして…。あの時は助かりました」 うぅ…なんか情けない…。最期は助けるはずの人に助けられたし…。 「私の方こそ助かったわ、貴方が着てくれなければ危なかった。ありがとう」 微笑みと共に来た言葉で、少し救われた気がした。 「ああ、そうだ」 駅の中、乗る電車が違うのでここでお別れ。 ごきげんようと挨拶をした後で、雪見さんは思い出したように言葉を紡いだ。 「是非薔薇の館にいらして」 「薔薇の館…?」 「山百合会の建物の事よ。場所は誰かに聞いて頂戴」 薔薇の花畑が咲き乱れる中に立つ豪華な洋館と、薔薇の蔦が茂る不気味な建物。 そんなものを思い浮かべた留美に、雪見は笑いながらその正体を教えた。 「あ、はい」 薔薇の館が似合いそうな建物が学内にあったらダメだよねぇ…。 留美はそう脳内を訂正した。 「放課後に来てくれれば居るから。」 そう言って、留美の襟元を正し、改札口へと向かった。 襟元を正される時かなりドキドキしていた留美は、 カシャっと言う小さな音に気付くはずも無く、家路へとついた。 この小さな音が、後に大波乱を起こす事など、無論知る由も無い。