「来てくれたのね」 扉を叩いた留美の前に出てきた雪見さんは、嬉しそうにそう言った。 そこで留美は気付いた。茜さんが居る以前に雪見さんもここには居る事を。 あの記事が出た後に雪見さんの居る薔薇の館を訪ねるなんて、 自分から噂を正当化しているようなものである。 「あの…茜さんは…」 しかし、来てしまったものは仕方ない。 この場を誰も見ていない事を祈りつつ、要件を言った。 「あら、私を訪ねたんじゃないのね。まあいいわ。お上がりなさい」 中へ通されながらもう1つ過ちに気付く。 詩子さんの記事の事を相談するのに、渦中の雪見さんが居るじゃないか…。 「お客さんよ、茜」 そんな留美の考えとは裏腹に歩は進み、一番奥へ。 そこにある2階の扉を開いて、雪見さんはそう声をかけた。 「?貴方は…」 読書をしていた茜さんは、本を閉じて留美を見る。 少し意外な様子だったが、表情が戻った辺り、何をしに来たのかは大体察したようだ。 「お客様なの、雪ちゃん?」 ほぼ同時に、部屋の奥でお菓子を食べている人がそう言った。 「こん…ごきげんよう、七瀬留美です。」 「あー、貴方が留美ちゃんだね。ふーん、確かに、いい風持ってるねー」 「はぃ…?」 私がよく分からずにいると、雪見さんが呆れたように呟いた。 「…ここでは雪ちゃんと呼ばないでと何度も言ってるでしょ、黄薔薇(ロサ・フエティダ)」 「うー、けちけちしない。減るもんじゃなし」 こちらを向いて少し口を尖らせたその表情がとても可愛い。 先輩にも拘らず留美はそう思ってしまった。 「その言葉遣いも止めなさいってば。 もう、黄薔薇(ロサ・フエティダ)の威厳も何もあったもんじゃないわ…」 「まあまあ、いいじゃないですか」 ため息をつく雪見さんを宥める少女。 薄茶の髪をおかっぱに近い形で短く切りそろえているその少女に向かって、 雪見さんは貴方も甘すぎるのよ、白薔薇(ロサ・ギガンティア)と言った。 「そんな事ないよー。雪ちゃんが厳しいだけだよー」 「うーん、どうなんでしょうねぇ…」 そんなやり取りを見ながら留美はようやく思い出した。 あの時雪見さんしか見えていなかった留美は気付くのに時間がかかったが、 思い出してみれば確かに今話している3人が入学式の時にステージに上がった3人だ。 「まあいいや。お客様にお茶お願い、澪ちゃん」 そう水場の方に声をかけると 『OKなの』 と書かれたスケッチブックが高々と掲げられた。 「雪ちゃんがようやく連れてきた妹だから、とびきりのお茶をご馳走してね」 『了解なの♪任せてなの♪』 一旦スケッチブックが下がってから、そんな言葉が書かれてまた上げられた。 お茶を入れる音が響く中、先ほどの黄薔薇(ロサ・フエティダ)に同意した 白薔薇様(ロサ・ギガンティア)が喋り始めた。 「そうですねぇ。妹が居ないのは赤薔薇様(ロサ・キネンシス)だけでしたから、これで一安心ですねー」 「そうだねー」 「な、何言ってるのよみさき,由衣!留美ちゃんはそういうのじゃないの!」 そう言って和やかにお茶を飲む薔薇様2人に対して、 思わず2人を名前で呼ぶほどその言葉に過敏に反応する雪見さん。 「えー、違うの?」 「そうよ。大体みさ…黄薔薇(ロサ・フエティダ)には朝言ったでしょう」 名前で呼んでいる事に気付いたのか、訂正する雪見さん。 普段は名前で呼び合っているのかもしれない。 「うん、助けてもらったんだよね。そしてその後すぐにロザリオ進呈。 ナイトのように現れたプティ・スール。面白いねー」 どうやら昨日の出来事を黄薔薇(ロサ・フエティダ)に話したらしいが、 色々と曲解して伝わっているようだ。 「だーかーら、襟元を正しただけだと言ってるでしょ!」 段々語尾が強くなる雪見さんの言葉は正しい。 件の写真は後輩の襟元を正してるだけの事なのだ。 「本当にロザリオ渡していないんですか?」 白薔薇(ロサ・ギガンティア)が尋ねると、渡してないと言っているでしょう! と言って懐からロザリオを出した。 「うー、ぐずぐずしてると取られちゃうよ。留美ちゃん注目の的だし」 「な…!あ…!」 「そして居なくなって大切さに気づく。うーん、割とベタな話ですねぇ」 「ベタじゃないよ。王道って言うんだよ」 「まあ、そう言ってしまえばカッコ良いですけど」 「……あんた達ーー!!」 またもや好き勝手話す薔薇様2人に雪見さんの雷が落ちる。 次は火山の爆発か?と思ったが、 部屋の扉が開いて瑞佳さんが入ってきた事で、噴火は抑えられた。 抑制剤になった瑞佳さんは訳も分からずおろおろしている。 「わ、怒った」 「短気は損気ですよぉ」 宥めているのか煽っているのか分からないような事を言いながら、2人は平然と会話を続けた。 「大体、言われたくなかったら雪ちゃんも妹作れば良いんだよ」 「そうですよぉ」 そう言って、2人は各々の妹の所へ行き、肩を抱く。 抱かれた瑞佳さんと茜さんはくすぐったそうだが満更でも無さそうだ。 すると、お茶を入れ終えた澪さんが茜さんに、ぽふって効果音が合うような感じで抱きついた。 少しクラっと来た。女の子同士がまるで恋人のように…。 スールの関係とは自分が思っている以上に深いようだ。 「〜〜!とにかく、この話はおしまい!」 強引に話を終わらせる雪見さん。どうも旗色が悪くなったようだ。 原因となっている気がする私は少し萎縮していた。