次の日留美が学校の靴箱から上履きを取り出した時、チラッと光が見えた。 中には、画鋲が入っていた。トゥシューズでは無いが、画鋲が入っていた。 「すごい…漫画の中の世界だわ…」 そう思った留美。昔の少女漫画でよくあったなぁと思う。 素で少女漫画の世界があるリリアンに居る留美は、またこの学校に驚いた。 ここまで典型的な事をする人が居るのかと。 そして、教室に入ると机の上に落書きがしてあった。 鉛筆を乱雑に走らせたような、ぐちゃぐちゃの線が書き込まれている。 どうせなら此方を唸らせるようなカッコ良い絵を書いて欲しかったものだ。 消すのが面倒くさいのでそのまま鞄を下ろし、授業を受ける体勢になる。 昨日と違って誰も話し掛けてこないので、準備はスムーズに進んだ。 その間中感じていた視線を発していた奴が、恐らくこの犯人だろう。 そして、その犯人は視線を追うまでもなく大体特定されていた。 登校前は色々いたずらがあったが、午前中は何事も無くすんだ。 また木の下でご飯を食べようか?でも、また色々言われるのも面倒くさいな。 そう思っていると、クラスメイトから声がかかった。 「薔薇さま方がいらしているわよ」 そう言ったクラスメイトの声や顔は少し引きつっていた気がする。 留美の席は廊下に近いので、座っていても黄薔薇(ロサ・フエティダ)と 白薔薇(ロサ・ギガンティア)が居るのが分かった。 とにかく、教室の外に出てみると、彼女等のそばには多数の生徒達が居た。 どうやら彼女等のファンが取り囲んでいるようだ。 そんな中で2人は一歩前に出て私のそばによると話を始めた。 「留美さん。放課後、薔薇の館に来て下さいねぇ」 「例のお返事。聞かせて欲しいから」 その言葉で周りがざわめき立つ。 どんなご関係なのかしら? 薔薇さま方とお近づきになられるなんて! 気のせいか、好き勝手言ってる人たちはどんどん増えているような気がする…。 どうも、薔薇さま方がここに来たと誰かがクラスで聞いたりして来た人が、 リアルタイムでどんどん集まっているようだ。 薔薇さま方は留美のクラスを覗いている。 白薔薇(ロサ・ギガンティア)が少し難しい顔をした。 ふと見ると、留美のクラスの生徒までどんどん集まって来はじめていた。 前門のファン,校門のクラスメイト。拙い、このままだと身動き取れなくなる…。 例のお返事とは山百合会の手伝いの事だろう。正直まだ決まっていないのだが、 このまま居ると大変な事になりそうなので、分かりましたと返事をした。 「じゃあ、待ってるね」 「では、ごきげんよう」 2人は周りの生徒達を一度見て、笑顔で挨拶をして去っていった。 その後は、生徒達は色々と噂しあっている。 質問攻めは勘弁して欲しいので、早めにここから退散しよう。 「許せないわ!!」 机を叩く音とその言葉で、そんな周りの生徒達も留美もストップした。 周りが止まった中を猛然と留美に近づくのはご存知広瀬真希。 「薔薇さま方にも取り入っていたのね!そうまでして薔薇さまになりたいの!?」 そう言って、詰め寄ってくる真希。 「そんな訳ないでしょ…。勘違いしないでよね。 私は薔薇さま方とは特に何の関係もないんだから」 ちょっとそれが怖くてそう言ってしまった。 仕方ない。手伝いは辞退してしまおう。それが無難な気がする。 「じゃあ、何故薔薇さま方が貴方の名前を知ってて尋ねてくるのよ?!」 「それは…」 言葉に困る。ありのままを言えばかなり大変な事になりそうだ。 「多分、瑞佳さんや茜さんに聞いたのよ」 「…とにかく、紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)はこの私よ!」 紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)…。 つまり、雪見さんの妹だ。それを考えた時、自然に質問が1つ浮かんできた。 「ねえ真希さん」 「何よ?」 「貴方どうして紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)になりたいの?」 「学校を率いていきたいからよ。だから来年は紅薔薇(ロサ・キネンシス)になるの」 その言葉は留美の中で決定的だった。 雪見さんの妹になりたいんじゃなくて、紅薔薇(ロサ・キネンシス)の妹になりたい。 姉妹制度はまだよく分からないけれど、そう言うものとは違うと思う。 「そんな理由で、雪見さんの妹になりたいの、貴方は?」 少し興奮した留美は、今言った言葉が失言である事に気づかなかった。 「……!」 だから、真希が大人しく引き下がったのも、自分の言葉が何か効いたのかな。 そう思った。まあ、それは正しかったのだ。真希には最期の留美の言葉が非常に堪えた 紅薔薇(ロサ・キネンシス)を雪見さんと呼ぶ留美の言葉が。 そして、それは真希の中で何かを壊した。壊れた機械は予想外の動きをする。 真希にとってのそれは電話だった。携帯を持つ手が少し震える。 今から電話するのは一番思い出したくない相手だからだ。 しかし、留美をどうにかするために電話する。それは十分壊れていないだろうか。 「もしもーし。だれー?」 だるそうな声が受話器から聞こえてくる。 「宗太」 「なんだ姉貴かよ…。何だよ一体?いつも通りガッコ行けってか?」 そう言ってげらげら笑う声。その声からして、回りにはかなり人が居るようだ。 広瀬宗太。真希の実の弟であり、真希が一番思い出したくない相手。 現在中学3年だが学校にも行かず盗みや恐喝など数々の悪さを重ねている、 典型的な不良さんだった。彼を巡って真希の両親は口論となり、ついに母親は家出。 宗太自身も家には帰って来ず、現在は母親に出られて自暴自棄になった父親と二人暮らし。 そんな現状を作った宗太は真希にとって憎しみしか募らせられない相手だった。 「お願いがあるの」 「は?優等生の姉貴が俺にお願いなんて。一体なんだよ?」 宗太の言葉にはいちいち刺がある。それを無視して真希は続けた。 「…人一人、襲ってくれない…?」 「はぁ…?」 「リリアンの制服着て、青のツインテールの髪をしてるわ」 「ちょ、ちょっと待てよ姉貴…。襲うってのは」 「言葉どおりよ。手はずはこっちが整えるから」 そう言って段取りを弟に伝えている真希の目を、 もし誰かが見たらこう言ったかも知れない。 狂っている…と