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「いやねぇ…。暴走族ですって…」

 いつもの帰り道に人だかりを見つけた留美は、
そこで通行人達からそんな言葉を聞いた。
 どうやら、暴走族がそこで走り回っているので、歩道が塞がれているらしい。
警察が来るまで待ってもいいのだが、確か2つ前の路地を抜けると、
公園があってそこから駅には行けた筈だ。そう考えて、そちらに向かった。

「そういえば、ここで雪見さんが襲われてたんだっけ…」

 路地を通りながらそう考えている留美の前後に、2〜3人づつの人が現れた。

「げっ…!」

 とっさの事に構える留美を見て、現れた人の一人がそんな言葉を発した。

「てめぇはこの前の…!」

 そう言われて留美も気づいた。

「あ、貴方達は前に雪見さんを襲ってた…」

 間違いない。前後に現れた計4人の奴等のうち3人は見覚えがあった。

「なんだ、お前等こいつにやられたのか」

「あ、ああ」

「へぇ、こいつがねぇ…」

 大将格だった大きい奴の代わりに、髪をツンツンに立てた、
いかにも不良風の男が居た。
不良風の男は他の3人を率いているようだった。

「姉貴に頼まれた仕事だが、お前等恨みがあるならやっていいぞ」

「で、でもこいつ強いぜ…」

「大丈夫だ。こいつが強いのは剣道だろう?今は武器は無い」

 そう言われて私も気づいた。この路地に以前あった木材などが無くなっている。
自分は剣道以外の武道はやっていないから、刀系の武器がないと素人と同じだ。

「そ、そうだな。へへ…」

 少年達は前より更にいやらしい笑いを振り撒いて留美に近寄ってくる。
左右から寄られているので逃げ場も無く、壁に追い詰められた。

「覚悟しろ、こいつ!」

「来ないでよ!」

 張り手一閃。留美の肩を掴んだ少年の頬を、留美の手が叩いた。

「てめぇ!」

 逆上した少年が殴りかかってくる。留美はとっさに顔をかばった。

ガッ!

 鈍い音が聞こえた。しかし、痛みはない。その代わりに、自分を包み込むような感覚を覚えた。
何?と思い顔をかばっていた腕を退けると、そこには薄桃色の流れがあった。

「うっ…くっ…!」

「雪見さん!?」

 留美を抱いて庇っている雪見さんだった。

「大丈夫、留美…?」

「私は大丈夫です。それより雪見さんが…!」

 少年の拳は雪見さんの肩に直撃したらしく、雪見さんは肩を抑えている。

「よかった…」

 そう言って、雪見さんは笑った。そして、今度は少年達の方へ向き直った。

「なんだ、前俺等注意した奴じゃん」

「正義ぶって、反吐が出るぜ!」

 大きな声でそう言っているが、殴ってしまった事で少し動揺している。
やはりあまりいい根性は持ってないようだ。

「真希さん!!」

 そんな少年達の声を吹き飛ばすかのような強い声で、雪見さんは叫んだ。

「見ているんでしょう?!出てきなさい!」

 周りを、しかし少年達ではなくその更に奥を見渡しながら、雪見さんは言葉を続ける。
それを聞いて、私も段々事の真相が掴めて来た。

「うるさいんだよ、こいつ!」

「止めろ!」

 雪見さんを黙らせようとした少年を、新しい少年が制した。
見ると、少し顔色が変わっている。

「貴方が…」

「止めなさい、宗太!!」

 それを見て何かを察した雪見さんが、少年に声をかけようとした時、他から声がかかった。
その方向に振り向くと、そこには広瀬真希さんが居た。
真希さんは、出てくると、宗太と呼んだその少年と対峙した。

「…行って!」

「……」

「…行ってと言うのが分からないの?!」

「…おい、行くぞ」

 少し話した後、少年達は去っていった。
それを確認すると、真希さんも、走り去っていった。
言いたい事はたくさんあったが、今は見送る。

「肩を貸して、雪見さん!」

 雪見さんの手当てが最優先だからだ。
まずは手当ての出来る所に連れて行かないと。
そう思って肩を担ぐと、雪見さんは自らそれを外した。

「ごめんなさい留美さん。迷惑、かけたわね…」

「そんな事良いんです。それより、肩を!」

「大丈夫よ。きちんと動くもの」

「でも…」

 動くからといって大丈夫とは限らないのだ。
それに、痛みなども処置をした方が確実に減る。

「それに、この近くに肩をさらけ出して治療出来る所は無いわ。
学校に戻るか病院に行けば大丈夫だけど、騒ぎが大きくなる」

「でも!」

 先と同じ台詞。変化が無い。でも、出てしまうものは仕方ない。
騒ぎが大きくなると雪見さんは言うけれど、女の子が襲われて怪我をしたのだ。
十分に大事件じゃないだろうか。

「騒ぎが大きくなったら、真希さんとその弟さんが罰せられるわ」

「…それは、仕方ないんじゃないでしょうか」

冷たい言葉だが、正しいと思う。悪い事をして罰せられないのは良くない。

「留美さんが怒るのは無理ないわ。
でも、恩着せがましいのは嫌だけれど、私が庇った事で帳消しにしてもらえないかしら?」

「…何故、そこまで真希さんを庇うんですか…?」

「真希さんが私を想った結果だから」

 雪見さんはこう答えた。

「でも、彼女は雪見さんではなく、紅薔薇様(ロサ・キネンシス)の妹になりたいだけなのに…」

 しかも、自分が紅薔薇様(ロサ・キネンシス)になる為に。

「紅薔薇様(ロサ・キネンシス)の事を想ったのは確かでしょう?」

「それならば、紅薔薇様(ロサ・キネンシス)である私にも関係があるのよ」

「実際、妹を作らない私にも責任はあるわ…」

 紅薔薇様(ロサ・キネンシス)になった今も妹が居ない雪見さん。
その妹になりたいという生徒はそれこそ星の数居るという。
そんな生徒達をヤキモキさせているのは私なのだから。と

「だから、彼女の事は咎めないであげて、お願い」

 そう言って、頭を下げた雪見さんを見て、留美は思った。
紅薔薇様(ロサ・キネンシス)の名前は伊達じゃないと。

「それに、先ほどの事でかなり懲りたようだし」

 それはまあ間違いないだろう。
紅薔薇様(ロサ・キネンシス)の妹になりたい自分の所為で、
当の紅薔薇様(ロサ・キネンシス)が怪我をしたのだから。

「一応、肩は帰ってから診ておくわ」

 そう言うと、雪見さんは何事も無かったかのように歩き始めた。
巻き込まれたのは確かに私だが実際怪我をしたのは雪見さん。
その雪見さんがいいと言うのだから、無理に大きくする事も無いだろう。
 だけど、私の心は納得していなかった。

「それじゃ、ごきげんよう」

 そう言って雪見さんと別れた後、私は改札口には向かわなかった。
前と同じく、彼女がここに居る可能性があったからだ。
彼女に会えば、私の知りたい事も分かるだろう。
そう思った留美は、駅内を探索し始めた。

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