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 真希は、泣いた。

「…あんたに、あんたに私の何がわかるって言うのよ?!」

「お母さんが出て行った気持ちが!
お酒ばかり飲んでるお父さんを見る気持ちが!
弟が、いつも警察沙汰になるのを見る気持ちが!」

「そして、それを見ても何も出来ない自分を見る気持ちが!」

私を静かに叩きながら、がむしゃらに泣いた。

「でも、学校で、クラスメイト達を率いている時は、
何か出来る自分を見る時は、その気持ちは晴れたのよ!
だから、私はもっとたくさんの人を率いたかった!
自分は何か出来るんだと思いたかった!」

それを私は受け止めた。聞けたのはそこまで。
あとは声にならない声で泣き続ける真希を、私は抱きしめ続けた。



「ねぇ…」

「何?」

 泣き止んだ真希は、私から離れて近くのガードレールに腰をかけた。
だから、私も習って腰をかけた。横に座る事を、真希は別に拒否しなかった。
 暫く沈黙が続き、それを私が破った。

「薔薇さま方になりたいのよね」

「そうよ」

「だったら、薔薇の館に行けばよかったじゃない」

「行ったわよ。まずは手伝いをしようと思ってね」

「でもね、耐えられなかった、あの空間が…薔薇さま方とブウトン、そしてその妹の居る部屋が…」

「気づいたら、私は逃げ出してた…」

「そっか…。」

 思い出し震える真希をまた抱き寄せ、申し訳ないと思った。
家族の事で悩む彼女が、一種の家族に近い雰囲気をもつ薔薇の館に馴染めないのは、
仕方ない事のような気がする。たった2度だがあの中に入った留美には良くわかった。
だから、思い出させた事を、留美は心で詫びた。

「私があんな事をしたきっかけが何か分かる?」

「あんたがね、紅薔薇(ロサ・キネンシス)の事を雪見さんと呼んだ事よ」

 また暫く沈黙が続いた後、今度は真希が話し始めた。
それで思い出す。確かに、今日の昼そう呼んだような気がする。

「…あんたが憎かったわ…。来てすぐに薔薇さま方と仲良くなるばかりか、
本来さま付けをする上級生、しかも薔薇さまを雪見さんと呼ぶ貴方が」

「すぐに彼女の「家族」になれた貴方が憎かった…羨ましかった…」

「今も、憎いの?」

「そりゃ、憎いわよ。でも、こんな話しちゃったんだから、もう何も出来ないわ。
自分の弱み、自ら全て見せたようなものだし。」

「まあそうね。詩子さんみたいにリリアンかわら版にはしないけど」

「彼女に知れたら全て御終いのような気がするわ…」

「そうねぇ…さっきも私と雪見さんの事つけてたみたいだし」

 実は彼女は全て知っていて、そこから真希さんの家を聞き出してここに来たのだが、
それは言わない方が良いだろう。

「ホントに?」

「ええ。捕まえたら、木刀で病院送りにされると思ってたらしいわ。まったく…」

「そりゃあ、男子4人を木材で殴り倒せば、恐れられるわよ…。
まったく、乙女が聞いてあきれるわ」

「いいの!私の目指す乙女は底が深いのよ!」

「なによそれ」

 そう言って、真希さんは笑った。

「…なんだ、そんな風に笑えるじゃないのよ」

「えっ?」

「学校でもそんな風に笑えば、雪見さんも振り向いてくれるかもね」

 そう言って留美も笑う。真希はそれをみて、留美には敵わないと思った。

「そう、かもね…でも、もう遅いわ」

「そんな事ないでしょ。現に雪見さんもさっきの事は許してくれてるんだし」

「そうじゃないわよ。紅薔薇(ロサ・キネンシス)には貴方が居るでしょ」

「私?私は別に関係ないわよ。」

 私がそう言うと、また真希さんは笑った。

「何言ってるの、紅薔薇(ロサ・キネンシス)を雪見さんと呼べる下級生は、貴方だけよ」

「…」

 何を言っていいのか分からなかった。

「あーあ、妹でも持とうかなぁ」

 そんな私の肩をポンと叩くと、真希さんはガードレールから降りた。

「お姉様になりたいから?」

「違うわよ。実は気になってる1年生が居るのよ。」

「なら良いけどね」

 また、お姉様になりたいから妹を作るなんて本末転倒な事になるなら止めた方がいいけど、
まず人ありきで考えているならば問題はないだろう。

「頑張って、真希さん」

「その呼び方はやめてよ」

「えっ?」

 リリアンでは名前+さん付けが基本のはず。
そう思っていると、真希さんは笑顔でこう言ってくれた。

「真希って呼んでよ、留美」

「…またね、真希」

 だから、私もそれだけ言って、ガードレールから降りた。
そして、それぞれの家へと歩き始めた。

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