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「あんた達!」

 グラウンドの隅に立った留美は、大声で叫んだ。
それは大音量の中走り回る少年達にも届いたのか、何人かが留美を見た。
留美の姿を見て、少年達はなにやら話し合い、一人が後へ下がる。
どうやら頭(ヘッド)に伝えに言ったようだ。つまり、宗太に。

「静かにしろ、お前等!」

 すぐに宗太が出てきて、暴走族達を大人しくさせた。
会話が出来ないからだろう。止まった暴走族達をガードマンが抑えようとすると

「今捕まえるなら、何人か校舎に突入させるぜ」

 バイクを降りながらそんな言葉を放った宗太。バイクは、取り巻きの一人に渡った。

「止めなさい!目的はそんな事じゃないでしょう!
他の人に迷惑かけたら承知しないわよ!」

「知るか。向こうが取り押さえようとするからだろうが。
取り押さえられて静かにしてる奴が居るとでも思うのか?」

 その言葉を聞いて、ガードマン達も動きを止めた。
留美は彼等の方へ一度礼をすると、再び宗太の方に向き直った。

「目的は何なのよ」

「姉貴からの依頼でね、アンタを潰して欲しいんだってさ」

「目的はあたし?」

「そう言うことになるな」

「なら前みたいに帰りにあたしを襲えばいいじゃないの。
学校に来る必要はないでしょう」

「どうせなら皆の見てる前でやってやろうと思ってな」

「目立ちたかっただけ?まったく…姉弟揃って素直じゃないんだから…」

「なんだと…?」

「注目されたかったんでしょ。それならバンドでも何でもやりなさい」

「誰が注目されたかったってんだよ…!」

「貴方に決まってるでしょう。
真希や両親を困らせて楽しんでる。まったく、ガキなんだから…」

「てめぇ!!」

「やるんなら!」

 その言葉で宗太は動きを止める。

「そうやって直にやりなさいよ。
ケンカは良くないけれど、周りに迷惑かけながらチマチマやるなんてそれ以上に良くないわよ」

「それとも、怖いの?一対一だと負けるから、そんな大勢で居るのかしら?」

「〜〜!!」

 顔を真っ赤にした宗太は、一旦仲間の所へ戻った。
再び留美の前に来た宗太の手には、二本の木刀が握られている。
そのうち一本を、留美の前に投げた。

「取れよ」

「一対一でやろうって言うの?」

「そうだ。あれだけ言って逃げるなんて言わねぇよなぁ…?」

「いいけど、貴方が負けたら後の人達と退散してもらえる?」

「いいだろう。だが、お前が負けたらお前を好きにさせて貰うぜ」

「分かったわ」

 留美は木刀を握った。
竹刀とは少し勝手が違うが、あまり気にあるほどではなかった。
むしろ心配なのは悪くした腰の事。もし下手に動けば悪化しかねない。

「行くわよ…」

 そう呟いて、留美は静かに正眼の構えを取った。
剣道の基本にして最強と呼ばれる構え。対して宗太は袈裟切りの構えを取った。

この子まさか…

 それを見た時、留美はある考えが頭に浮かび、同時に体が反応して飛び退いた。
次の瞬間、凄まじい速度で留美が居た位置に木刀が振り下ろされる。
 そして、宗太は振り下ろした木刀を片手だけで振り上げ、
初撃を交わした留美に今度は下からの一撃を加える。
 留美は、それを辛うじて木刀でガードした。

やっぱり、素人じゃない…!

 木刀を受けた衝撃で1,2歩下がりながら、留美は先ほどの考えが間違いない事を悟った。
留美は知る由もなかったが、宗太は剣道を習う仲間の一人に多少剣術を教わっていた。
それを、少年同士のいざこざの中で我流で磨いていっていたのだ。
 本人も気づいてなかったが、その実力は剣道の有段者とも渡り合えるほどになっていた。
無論、剣道のルール内では留美には及ぶべくもないが、今のようなルール無用の戦いだと、
逆にそんな戦いを多く経験している宗太の方に部があった。

 木と木がぶつかる音が響いている。
留美は宗太の実力に圧倒されながらも、持ち前の経験と運動能力で互角に戦っていた。
 そこに居る先生や生徒,暴走族の仲間達,
果ては呼ばれて駆けつけていた警察官ですら、何も出来ずにその戦いを見守っていた。
 そして、ついに戦いの均衡が破れる時が来た。

「くっ…!」

 破ったのは留美の方。元々すぐに片付けてしまう予定が
相手の予想外の実力で長引いてしまい、腰の方が限界を超えてしまったのだ。

「貰った!」

 勝機を見出した宗太の上段斬りが留美を襲う。
木刀が自分の頭めがけて振り下ろされるのが、留美にはやけにゆっくり見えた。
そこで思い浮かんだのは真希の顔。泣いた真希の顔だった。

「…舐めないでよ…!あたし七瀬なのよ!!」

 その言葉と同時に、留美は体をずらしつつ竹刀を振るう。
相手の鳩尾を狙う一点必殺の突きとなり、相手に向かっていった。
その速度、先に放たれていた宗太の上段斬りより先に相手に届くもの。
突きは習わないはずの中学で剣道を止めた留美が、殆ど本能で放った一撃だった。

そこで、また真希の顔が浮かんだ。
泣きじゃくった顔。
別れた時の笑顔。
さっきの青ざめた顔。
それが浮かんだ時、何故か留美は宗太へ向かう木刀を止めていた。

ガッ!

 鈍い音と共に、決着がついた。

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