「どうしたの、雪見さん?」 歓迎式が終わった後、1年生からの質問攻めから何とか抜け出し、鞄を教室へ取りに行った。 鞄を持ってさぁ帰るかと教室を出ると、雪見さんが居た。 「今、時間いい?」 「大丈夫ですけど」 帰ろうとは思っていたが別に帰る必要はなかったのでそう答えた。 「ちょっと付き合ってもらえないかしら」 「はぁ」 気のない返事をすると雪見さんはそのまま歩き出した。 なので、自分も着いていった。そういえば、久々に雪見さんとゆっくり二人になった。 最近はバタバタしていたので話す機会とかがなかったのだ。 雪見さんの足が止まるまでそんな事を考えつつ着いていっていたので、 何所に自分が向かっているのかさっぱり分からなかった。 「ここは…?」 「古い温室よ」 そう言って雪見さんは一度止めた足をまた進めていく。 着いていきながら周りを見ると、なるほど鉢植えなどがある。 しかし、建物は確かに古いが中のものは新しいものがある気がした。 「今は公的には使われていないけれど、 毎年熱狂的なファンがいてずっと取り壊されないの。 だから、花もちゃんと咲くのよ」 留美が思っている事が分かるのか、雪見さんはそう言った。 「例えばこれ」 雪見さんの足が止まる。その足元には、細い枝があった。 その先に、1つの紅い花が付いている。 「紅薔薇(ロサ・キネンシス)は1つだけ…か…」 「えっ?」 「これが、ロサ・キネンシスなのよ」 「これが…」 留美は初めて見た。枝は細くて頼りないけれど、 それを守るかのように1つの花が咲いていた。 「紅薔薇(ロサ・キネンシス)は1つだけ。その通りね」 そう言って雪見さんは笑った。 よく分からないのでとりあえず次の言葉を待っていると 「妹にならない?って言ったのよ」 「ついさっき。歓迎会イベントの後、真希さんに」 と雪見さんが言った。留美の心臓が、ドクンと鳴った。 真希が、雪見さんの妹に…。喜ばしい事のはずだが、釈然としない。 「それで…どうなったんですか?」 「私の妹にならない?って言って、ロザリオを差し出したの」 そう言って、懐に閉まっていたロザリオを取り出した。 …あれ?何かおかしい。あげたロザリオが何故ここにある。 「そうしたら真希さん。何故かある人の事を説明し始めたの」 混乱する留美をよそに、雪見さんは話を続ける。 真希が話したのは、雪見さんもよく知らないが、1年生の子の事だったらしい。 恐らく、前に真希が言っていた気になる後輩の事なんだろう。 その子に自分と同じものを視た真希は、それ以来その子が気になっているらしい。 自分の事が解決し、やっと彼女を見れるようになったのに、 紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)になんてなったら、 また彼女を見れなくなります。 「ってね」 最後にそう言って雪見さんの回想は終了した。 ちなみに、1年生の子の名前までは教えてくれなかったらしい。 「真希さんは、自分の見るべき人を見つけたみたい」 「それを考えた時に、自分はどうなんだろう?って思った」 「そう思っていたら、最期に真希さんはこう言ったわ」 なので、この話が喩え本気の話だったとしても、辞退させて頂きます。 「そこで気づいたのよ。私が真希さんの事をどう思っているか」 そう言って、雪見さんは留美の方を見た。 「留美の、お友達。としてみていたのよね、私は」 「そこで気づいたのよ。今の私は貴方を軸に認識してる事に」 雪見さんが気づいたのは、自分が周囲をどう認識しているかという事だった。 瑞佳さんと茜さんは、それぞれ薔薇さま方の妹。 という認識から、留美のクラスメイト。という認識へ。 何ともなかった澪さんは、今日の歓迎会で、私の隣に座ったと認識されたらしい。 風が吹いた。 風に目を奪われ、再びあけると雪見さんの顔からは笑みが消えていた。 風で雲の位置が変わったのか、雪見さんが居るところには夕日が射していた。 「単刀直入に言うわ。」 夕日の中から私を見つめるその目は、吸い込まれるようだった。 「私の 妹に なって」 ロザリオを出して胸の前に広げたその手に、吸い寄せられるようだった。 「…」 風に広がる薄桃色のその髪に抱きしめられるように、 留美は、雪見さんの目の前まで寄った。そこで、一礼する。 これからも、よろしくお願いします。そんな気持ちを込めて。 そんな留美の首に、ロザリオがかけられた。 紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)、 1ヶ月前まで雪見が居た所に、留美が座った瞬間だった。 ちなみに、そのシーンを収めたリリアンかわら版を見た留美が、 新聞部へ怒鳴り込んでいったのはまた別の話。【END】