「私に関ると…不幸になるんです。だから…」 そう言ったきり押し黙る彼女を前に私は何も出来ず、暫く時が過ぎた。 「佐祐理さーん」 そして数分ほど経った頃、女生徒達の声が聞こえてきた。 見れば、よく彼女と一緒に居る佐祐理さんのクラスメイト達。 言わば彼女の取り巻きと言える者達だった。 彼女と一緒に居る私を少し訝しい目で見た後、彼女を連れて去っていった。 留美と紅薔薇様(ロサ・キネンシス)も、どうやら温室を出たようだ。 肩の力が抜ける。表には出さなかったが先ほどまではかなり緊張していた。 彼女とのやりとりや、取り巻き達が来たのもあるが、 一番の原因は、ずっと私を見つめる、鋭い視線のようなものだった。 彼女が居なくなると同時に、視線も消えた為、肩の力が抜けたのだ。 「何…かしらね…」 硬直が解けた瞬間、自分はそこから走り去っていた。 「そんなわけで、その倉田さんがちょっと気になってるわけ」 「そうか。がんばれよ」 「悩んでいる相手には、気をつけて接しないとダメよ」 「分かってるわ」 その夜、私は夕食の時に佐祐理さんの話題を出した。 お父さんとお母さんはそんな私にアドバイスをくれる。 ほんの少し前のうちでは考えられなかった光景だ。 皆で食事を摂り、こんな世間話に華を咲かせる家族。 …留美のおかげ。留美には感謝しても仕切れない。 だから、私は決めている。今から卒業まで、留美の力になる事を。 理由は簡単。私は留美の力になりたい。ただそれだけ。 留美と居る私を悪く言う者も周りには居るけれど、周りに何を言われても構わない。 無論留美の迷惑になるなら考えるけど。今の所留美は迷惑とは感じていないと思う。 自分勝手な私の考えがそう思わせているだけかもしれないけど。 同じく、留美に救われた弟の宗太の方をちらりと見た。 すると、宗太は何か難しい顔をして考え込んでいた。 「どうしたの宗太?」 「いや…何でもない」 そう言われたので、私はそれ以上聞かなかった。 「姉貴…ちょっといいか?」 そんな宗太が、私の部屋を訪れたのは、 食事が終わってお風呂でも入ろうかと考えている時だった。 「どうしたの一体?」 クッションを差し出す。 「なぁ、姉貴の言ってた倉田って、倉田財閥の娘の事か?」 「ええ、確かね。それがどうかしたの?」 「じゃあ、やっぱあの時の奴か…」 「知ってるの?」 「ああ」 そして、宗太は話し始めた。 宗太は、倉田佐祐理の妹、倉田一弥と同級だったらしい。 そして、倉田一弥は2年前に亡くなっており、 その葬式に同級として宗太は出席していたのだ。 「当時はあんなだったし、殆ど知りもしないクラスメイトだったからな」 「葬式行くのも嫌々で、適当にその辺うろついてたんだが」 「会場の裏で、佇んでる女の子が居たんだよ」 その様子からただならぬものを感じた宗太は、暫く観察していたとか。 後から周りの声を聞いて、その子が倉田一弥の姉である事が分かったらしい。 「あの目は印象に残ってる。虚ろな…見てるだけで怖くなるような目だったぜ…」 そう言うと、身体を小さく震わせた。 当時も荒れていた弟は、その根幹にある気持ちを表しているような目が、 怖かったのかもしれない。話を聞きながら私はそう思った。 「…あまり、関わらない方がいいかもしれないぜ、姉貴…」 暫く経って立ち上がった宗太は、それだけ言うと部屋から出て行った。 その姿を見送った私は、ベッドに寝転がりながら 「もう、遅いわ…」 知らずそう呟いていた