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「…ここは…?」

 自分達が帰って来たトーコに事情を説明していると、
気絶していた女の子が目を覚ました。

「私の工房、『伽藍の堂』だ。ああ、私は「青崎橙子」だ。
そして、こいつがお前を助けた、「両儀式」だ」

 トーコの言葉で視線が集まる。
それらは無視して、少女に身体状態だけを伝える。
 それを聞くと、少女は丁寧なお礼の言葉と共に、一礼した。
恐らくいい所のお嬢様だろう。鮮花もこの子を見習うべきだろう。

「私は、遠野秋葉といいます。浅上女学院の代表として、
この市内にある礼園女学院へ学園交流に来ていました」

 それを聞いて、自分は一人納得をしていた。
なるほど。浅上女学院か。礼園と同じようなお嬢様学校だ。
尤も、鮮花とこの少女を見るに、その差は明らかなような気もするが。

 しかし、それよりも気になったのは遠野の名前。
この世界には「魔」と呼ばれる存在がある。
そして、人の中に、それと契りを結んだ、「混血」の家系と、
それを退ける、「退魔」の家系が生まれた。
 自分の家、「両儀」は退魔の家系だ。
そして、混血の家系の中に、「遠野」という名前があった気がする。

「女性が襲われていて、それを助けようとしたのですが、
逆にやられてしまいました。そこからは覚えていません…」

 身だしなみを整えた後(ここら辺もお嬢様たる所以だろう)、
ゆっくりとその場の状況を話し始めた。それは簡潔なものだった。
それを聞いて、先ほどの情景が思い浮かぶ。

「アレは規格外のモノだ。格好も冗談としか思えない」

 そう、まるっきり、有名な血を吸う怪奇そのものだった。
戦った限りでは、普通の人間など瞬時にタンパク質の塊へと変えられるだろう。
それと戦って曲りなりにも生き残った彼女が、件の「遠野」である確率は高い。

 しかし、それは今はどうでもよかった。

「ん…にゃ…」

 少しの沈黙があった後、今度は猫娘の方が目覚めた。
何があったか分からないといった顔を少し見せて…

「何するにゃ!ドノヴァン!」

 と叫んだ。

「…にゃ?ここはどこ?」

「ここは、私の工房、『伽藍の堂』だ。
君は気絶して、うちの社員がここに連れて来た」

 といって、幹也を猫娘の前に持ってきた。
そしたら、猫娘の奴は、やるに事欠いて

「そうなの?ありがとー♪」

「わ、ちょ・・・ちょっと・・・」

 と言いながら幹也に抱きついた。そして…

「助かったにゃ♪」

 チュッ!

 と言う効果音が当てはまるほどに強く、頬にキスをかましてくれた。

「…式。今はやることがある。止めろ」

 そう言われて、私は無意識のうちに(うん、絶対に無意識のうちにだ)
手にしていたナイフを着物の中に仕舞った。
(既に遠野がどうだとかは、頭から消えていた)

「さて、目覚めてすぐになんだが、
君には聞きたい事が沢山あるんだが、話してもらえるな?」

「OKにゃ」

「…その前に、幹也から離れろ…」

 幹也に横から抱きついたまま話そうとしていた猫娘に、静かにそう言い放った。
(それを見て橙子は、これを聞いたら荒耶でも逃げ出すだろうな
と考えていたが、それは式にとってはどーでもよかった)。
 それを聞いて、猫娘は幹也から離れた。

「あ、ごめんね。私はフェリシアと言うにゃ。
ご飯食べてたら突然襲われて、抵抗したけど切られちゃったにゃ」

「いきなり襲われたのか?」

「そうにゃ。しかも、あれは知らない奴じゃないにゃ。
ドノヴァンって言う、ヴァンパイアハンターにゃ」

 先ほどこの猫娘が叫んだ名前だった。

「ヴァンパイアですって…?」

 すると、その後の言葉に反応した遠野秋葉が、鋭い視線を送った。

━同時に、鋭い気配が複数、自分達を囲った━

「うん。ヴァンパイアなどのダークストーカーを狩る専門の人間にゃ」

「じゃあ、あのデミトリって奴も…」

「デミトリ?デミトリもこっちに来てるにゃ?」

「貴女!あいつを知っているの?!」

「知ってる…にゃ…」

「気をつけるにゃ…」 

 どうやら、目の前の猫娘も気付いたようだ。
一瞬で、気配が戦う者としてのそれに変わる。
 トーコを見ると、トーコも既に臨戦体制に入っていた。
少女は気付いていないようだ。恐らく実戦経験の差だろう。
(無論幹也は気付くはずも無い)

 次の瞬間、ガラスの割れる派手な音と同時に、窓から何者かが侵入してきた。
それと同時に、下の階から大きな音が聞こえた。恐らく扉が破壊された音だ。
 2点同時攻撃。戦力を分散するしかない。

「トーコ!下は任せた!」

 そう言って侵入した何者かに対峙しようとした自分の前に、2つの影が立った。

「ここは私に任せるにゃ。貴女は彼を守るにゃ!」

「色々事情をご存知そうね。是非聞かせて貰いたいわ…」

 猫娘と遠野秋葉だった。
彼女等はそれだけ言うと、意識を目の前の相手に集中させた。

「世界をゆがめる「魔」よ。おとなしくチリへと帰れ…」

 目の前の相手がそう言った瞬間、戦いは始まった。
(ちなみに、トーコは既に下で何かしたらしく、変な叫び声が聞こえてきていた)

「何でいきなり襲ってきたにゃ!」

「貴様等がこの国に悪影響を及ぼさないように、する為だ!」

 まず討って出たのは猫娘。開いていた距離を一瞬で詰め、爪による一撃を加える。
首に下げた大きな数珠でそれを防いだ相手は、
反動で遠ざかる猫娘に、身の丈ほどもある大きな剣を薙ぎ払う。

「そういう事は先に言って欲しいにゃ!」

 常人では太刀筋すら見えない剣の腹を足場にジャンプした猫娘の着地を、
相手は剣を投げる事で追撃する。着地した瞬間に剣が襲うどうしようもない状況。

「事情は分からないけれど、いきなり襲う貴方と私達と一緒に戦うこの娘、
どちらがこの国に悪影響を及ぼすかは、すぐ分かるんじゃなくって?」

 しかし、その剣は見えない何かに弾かれ軌道を変える。
見れば、髪の毛を赤くした遠野秋葉が、何かを放ったような格好をしていた。
 これで確定した。彼女は、あの「遠野」の家系だ。
髪が赤くなった彼女の状態は、混血内の魔の血が強くなった状態「紅赤朱」そのもの。
紅赤朱と化しても理性を失わないのは、彼女の類稀なる精神力の賜物だろう。

「あの剣に気をつけるにゃ!」

 それだけ言うと、猫娘は再び突進していった。
猫が獲物を獲る時のジャンプ(それよりは遥かに速いが)で相手に接近する。

「エレメントソード!」

 対する相手は、何かを唱え、その背後から出た精霊のようなもので攻撃を加える。

「甘いにゃ!DancingFlash!」

 精霊の炎に包まれた剣がその身を両断する直前で、猫娘は身体を丸めて回避した。
そのまま地を転がり、相手へと到達した瞬間に、怒涛のような攻撃が相手を襲う。
 身体能力を爆発的に高め、通常では考えられない間隔で打撃を加える接近戦の技の1つ、
俗に言う乱舞と呼ばれる攻撃手段。
 乱打は確実に相手を追い詰め、ついにがら空きになったボディに拳が吸い込まれ━

━ザンッ! という音が、後ろから響いた。同時に苦痛に歪んだ声も。

「あぐぅ!?」

 それは、遠野秋葉のものだった。
そして声は猫娘の動きを止め…

「に”ゃ…!」

 そこに来た電撃に猫娘もまた声をあげる。
体勢の崩れた猫娘に迫るは、遠野秋葉のわき腹を裂いた巨大な剣。
 
 …形勢は逆転した。そう判断した自分は、すっとナイフを構える。
そして、行動に移ろうとしたその横で、その横で、巨大な気配が爆ぜた。

 拙い…!

 目の前を猫娘に向かって飛ぶ剣を見て、心中でそう吐き捨てる。
 接近戦、それも目で追うのがやっとの攻防に対しては、
自分の檻髪(兄さんが名づけてくれた私の特殊能力名だ)は
相手にも被害が及びやすく使えない。細かく速い制御には向いてないのだ。
 それで攻撃しかねていると、突然わき腹に衝撃と共に激痛が走った。
その正体は先ほどの剣。弾いて後ろに行った剣が戻ってきたのだ。
猫娘の先の言葉はこの事だったのか…。迂闊だった…。
 しかも、その声で猫娘も反応してしまい、攻撃を喰らってしまった。
そこに迫る相手の追撃と剣。このままでは、猫娘の命はまず無いだろう。

 先ほどの戦いが蘇る。完膚なきまでにやられた私…。
…結局、私は足手まといだったのか…?

━まあ、所詮それが妹の限界よね━

━そうそう、遠野君は私たちに任せて、ゆっくり休んでて下さい━

 そんな声が、どこからともなく聞こえてきた。
(無論、その2人が実際聞こえるわけはない━いや、聞こえても不思議じゃないが━)

冗談じゃ…ありません…!

 噛んだ唇から出る血よりも赤く、髪が染まる。
それは、圧倒的な力を以って外れた者を滅する、遠野家を継ぐ者の証。
 

「ぁあぁぁあぁぁ!!!」

 叫びと共に、爆発的な赤の奔流が流れ出す。
色を纏った、本来ならば見えないはずの流れ。
赤き主の放つ檻髪は、猫娘を挟む2つの脅威に一瞬で絡みつき、激しい火炎を発生させた。



「?!何だこれは!?」

 吹き荒れる熱風から幹也を守るべく、距離をとった自分が見たものは、
猫娘に攻撃しようとしていた相手に絡みつく赤い絹のような流れだった。
 それが体に触れた瞬間、外から炎が絡みつく。
相手が炎を出そうが氷を出そうが関係なかった。

「ぐぁぁぁぁぁ!!」

「やめるにゃ!!」

 その悲鳴は、フェリシアの言葉が聞こえるまで相手の口から流れつづけた。
そして、赤の奔流は消え、遠野秋葉と相手はその場に倒れた。


 暫くして、下の何かを全滅させたと思われるトーコが戻ってきた。

「…一体何があった、式?」

 凄まじい状態になった工房を見て、頭を抱えながら言うトーコに少し同情しつつ、
幹也やトーコと一緒に、怪我人達の治療を行う。

「なあ、こいつはどうするんだ?」

「そいつにはいろいろ聞きたい事がある。目覚めてから色々……」

 そこまで言って、トーコが咥えていたタバコを落とす。

「わ、危ないですよ、橙子さん。…?」

 落ちたタバコの火を慌てて消した幹也が、トーコの方を見て訝しむ。
見ると、トーコの顔色が少し悪い気がする。
そんな自分達の視線は意に介さず、明後日の方向を見て一言だけ呟いた。

「…鮮花」
 
「?鮮花がどうし」

バタン!!

 幹也がその言葉に反応して訪ねようとすると、
勢いよく扉が開き、誰かが入ってきた。
目にいっぱい涙を浮かべ、鮮花が…鮮花が…と繰り返す、浅上藤乃だった。
 嫌な予感が、自分の中で広がっていく。
そんな自分達の横で、遠野秋葉が目覚めた。

 事態は、進んでいるようだ


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